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‘AXIZ’

 投稿者:三浦介  投稿日:2008年 8月 2日(土)19時52分2秒
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    アクシズは、国家ではない。

  たかだかジオンの資源衛星にすぎず、ほとんどまともに国土国民を持たないこの組織が、連邦とジオンの二大勢力に割って入った第三勢力たりえるのは何故なのでであろうか。

  サイド3ズムシティのとある病院。その屋上。
  シャア・アズナブルは静かに本を読んでいた。周囲の空気が変わったことにはとうに気付いているが、そのまま読み続ける。

 背後から、声がかかる。
  「そのコルセット、まるで亀だな。シャア」
  わざと驚いた風を見せ、立ち上がり敬礼する。
  「光栄であります。総帥閣下」
  「ははっ、いつも通りガルマでいい。シャア」
  「しかし…」
  「だから人払いをした。しゃちほこばった君と話したくはないよ、公的な所ならともかく」
  「…ふっ、そう来ると思っていたよ。…よければお言葉に甘えて、座る許可をもらいたいものだが。まだ足の方も痛むのでな」
  「はっはっは…変わらないな君は…シャア。いや、キャスバル・レム・ダイクン」
  空気が止まる。さしものシャアもこの展開は読めていなかった。
 「…いつからだ?」
  だがガルマは表情も口調も普段と変わらない。シャアは心底からわずかに安堵してしまった。
  「私も総帥になって、いろいろなことがわかるようになった、と言うことさ」
  「では話しとは…」
  「そのことだ」
  互いの視線が交錯する。
  「シャア。君の父上を殺したのは、私の父ではない」
  沈黙が広がる。
  取引か?感情が受けたかつてない衝撃をよそに、シャアの中で計算が回転を始める。ひとまず死は避け得るらしい…
  「君の父上も、ヤシマ大統領も、ギレン兄も…彼らに殺されたんだ。君は彼らに利用されたに過ぎない。だから、君の敵はザビ家ではない」
  シャアは沈黙を続ける。続けざるを得ない。だが一面、まな板の鯉に等しい自分にイニシアチブを持たせている‘総帥’の甘さに同情している。
  「…彼ら、とは?」
  ガルマの目の端に浮かぶ喜色をシャアは見逃さない。断れば死か。さすがにそこまで甘くはいということか。
  「この世の枢軸を握る人間たちの組織…【AXIZ】だ。兄上は、彼らを利用しようとして失敗したんだ。兄上の機密データのプロテクトがようやく外れた。間違いはない。父上にも確認はした」
  「…それで、それを私に知らせてどうするつもりだ?」
  「まだ信じきれていないようだな」
  「簡単にはな」
  「ふふ、それでこそシャアだな。もっと驚くと思っていたが?」
  「驚いているよ。ただ、君に消される心配はなさそうだからな」
  「ふふ…逆に言えば、君が私を総帥にしてくれたとも言えるからな。血は争えないものだ」
  いっとき和やかになった雰囲気に再び冷たいものが流れる。
  「私に力を貸せ。シャア。私は連邦を倒し、彼らをも滅ぼしたい」
  「それは命令か?」
  「友として頼んでいる…と言いたいが、君が断るのならそうだ」
  「では断りようがないな。私もここで死ぬより、真実を知りたい」
  「助かる。ではまず、その足で私の名代としてアクシズとの停戦を締結して来て欲しい。その目で、真実の一部を見てきてくれ」
  「この足でか?」
  まだギブスは取れていない。
  「それくらいの復讐で済むんだ。安いものだろう?」
 二人は静かに笑いあった。


 小惑星アクシズ。
 シャアはハマーン・カーンという少女が苦手だった。
  アクシズに着き、すぐに姿現したその快活な少女。一目見て、シャアは己が軽んじられたような侮蔑感を感じる。金髪、その髪型。この少女は父親の力を使ってかその指示でか、妹アルテイシアのことを知っているに違いなかった。その装い。流れこむ生温い感情。ララァのことも知っている。憧れ…赤い彗星…奢り…そのNT能力の高さ。クスコ・アルとの模擬戦に敗れたことすら知っている…
  だが、シャアはアクシズ滞在の間、ハマーンへの丁寧な態度を保ち続けた。外交・戦力・保身。自分への苛立ちを抑えることには、シャアは慣れすぎていた。ハマーンははしゃぎ、最後には傷つくことになる。

  調印後、シャアはマハラジャ・カーンに呼ばれる。調印の舞台となったアクシズの最新鋭戦艦サダラーンが巨大なパノラマウィンドウのこちらを威圧している。驚嘆すべきことに、この弩級戦艦は大気圏への降下が可能なのだという。確かにジオン公国所属のただの資源衛星にできることではない。主力であるMS「ガザB」は、簡易ながら可変昨日を有している。これも大気圏降下を意図していると見て取れた。理に適っている。

  ブランデーグラスを片手に持ったマハラジャがシャアを振り返りながら言う。背たけは高くないが声は高い。だがその眼光は、シャアがこれまでに会ったどの人物よりも鋭い。
  「どうか?気に入ってくれたかね?」
  「ハ、総帥閣下もお喜びかと」
  マハラジャは片眉を上げる。
  「ハマーンのことじゃよ。貴公には、ハマーンと新しい世を築いてもらわねばなるまいからの」
   グラスをくるくると揺らし、老人は遊んでいるかのようだ。
  「ハ、しかし、マハラジャ・カーン閣下…」
  「マハラジャ・カーンのぅ…くどいのぅ。ガルマからAXIZのことは聞いておるのじゃろうに。わしがマハラジャ・ハーンと呼ばれることも」
  ハーン?
  「ラジャは王。マハラジャとは王の中の王。ハーンとはさらにそれを統べる者。ジャミトフめがしくじりおったせいで、わし自ら手を下さねばならぬようになった。まったく、面倒じゃの…まあ、娘が降り立つべく綺麗に掃除された地球を用意するためであれば、やむを得ぬか」
  マハラジャは、グラスを魚のいない水槽の上で傾けた。朱の色が泡立ちながらたちまちに充ちる。そのまま老人はシャアに一瞥もくれずにすれ違い室外へと去る。
  「誰も逃げられんよ。おぬしも、誰もな」
 

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